映画「クリムゾン・タイド」~戸川利郎

【1996年春】

クリントン米大統領の訪日を機に沖縄の米軍基地の整理縮小は前進を見たものの、極東の安全保障では逆に重いものを背負う論議を迫られたようだ。いきなり国際政治問題を持ち出したのは、「クリムゾン・タイド」がまさしく極東の安全が危機にひんするサスペンス活劇だからである。日本近海で保守派反乱分子が乗っ取ったロシアの原潜と米原潜が息づまる攻防を演じ、好戦的なジーン・ハックマンの艦長とデンゼル・ワシントンの若いエリート副官が核ミサイル発射をめぐって対立、米本土との連絡も途絶えた艦内で乗組員の抗争に発展する。

このトニー・スコット監督の娯楽作品で日米安保問題まで連想することは無用であるが、面白ければ背筋が寒くなってもいいという向きには、スティーブン・キング原作の『黙秘』もいいだろう。父親の変死をめぐるキャシー・ベイツの母親と娘の葛藤(かっとう)、刑事の母親への執拗しつような追及が寂しい港町を舞台に心理的恐怖を盛り上げる。テイラー・ハックフォード監督。また、劇場未公開の『交差死体』も、複雑な構成のサスペンスで楽しませる。ショーン・ヤング主演。

『スモーク』もお勧め。ニューヨークの下町の煙草屋の店主やそこに出入りする人々の日常の中に、いまや煙草とともにうとまれ消えていく街の古風な趣や人情を描いている。ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート主演、ウェイン・ワン監督。


戸川利郎